知人とのお金の貸し借りや、商売でも親しい間柄の融資であれば契約書を作成しないことも多いものです。そのような契約書を用意しなかったケースの債権回収の方法を検討してみましょう。
大野さんは個人で商店を営む事業主で、あるとき20年以上も個人的な親交のある矢田さんにお金を貸して欲しいと依頼されました。
矢田さんは従業員数10人規模の鉄工所を経営しており、一時的な資金ショートのために運転資金が必要になったと言いました。
大野さんは友人の突然の依頼に驚きましたが、家族ぐるみでも長い付き合いである矢田さんを信用し、お金を貸すことに承諾しました。大野さんは矢田さんの求めに応じて、3ヶ月後に一括返済することを条件に200万円を貸しました。この200万円は大野さんの定期預金を解約して都合をつけ、矢田さんの銀行口座に振込をしました。矢田さんが浪費をしたり約束を破るような人物ではないことを知っていたので、大野さんはお金を貸す際にも特に契約書を作成することはしませんでした。親しい仲での話なので、利息も無しという話にしました。
それから3ヶ月が経過しましたが、矢田さんは200万円を用意できないので、分割で返済させて欲しいと言い出しました。大野さんは予定が狂うので困ると思いましたが、矢田さんの困った様子に同情して分割返済に了承しました。
そして、銀行振り込みにて毎月10万円ずつを20ヶ月かけて返済してもらうことになりました。
しかし、矢田さんの事業の経営状況が悪化し、この毎月10万円ずつという返済条件も守られることはありませんでした。最初の3ヶ月は5万円ずつの返済がありましたが、それ以後はいくら督促しても返済をしてもらえないようになりました。つまり、15万円を返済されただけで、残りの185万円については一向に返してもらえません。
そんな調子で融資の日から2年ほど経過し、さすがに我慢が出来なくなった大野さんは矢田さんの自宅を訪問して詰問しました。すると矢田さんはお金は返すと言うものの、その返済時期の明言はしません。しかも、返済残額は150万円だと言います。
矢田さんの態度に立腹した大野さんは、何が何でも貸したお金の全額を回収しようと決意しました。
このような金銭貸借に関するトラブルは実に多いものです。借りたお金を返さない矢田さんが悪いのは確かですが、お金を貸した大野さんの側でも落度は大きいと言えるでしょう。やはりいくら親しき仲でも200万円の金銭貸借に契約書を用意しないのは呑気すぎます。
不覚にもこのような状況になったとしても、債権回収を諦めるわけにはいきません。借主の矢田さんは債務を否定しているわけではなく、返済する意思はあると言っています。実際に15万円の返済をしているので、法的にも債務を承認したことは明白だと言えます。
すると貸主と借主の両者が借金の存在(債務の存在)については認めつつ、その金額について認識が異なるという状況になります。
幸い貸主の大野さんは銀行振り込みで送金していて、15万円の返済も口座振込で行われています。この状況なら融資額と返済額の事実証明も容易なので、残額が185万円であることを借主に認めさせることができるでしょう。お金のやり取りについては、普段から口座履歴や請求書や領収書の発行などで記録を残しておくことが大切です。
貸主と借主が親しい間柄であれば、その親族とも知らない仲では無いことも多いものです。借主の矢田さんの親族に事情を説明し、債務承認の契約書作成に同意してもらうようにして、以後の返済に心理的強制をかけるようにするべきです。その際には、親族に連帯保証人になってもらうようにすれば、借主の返済に対する意識は高まるものです。
このように金銭貸借の契約書を作るタイミングとしては、お金を貸す時点がベストですが、それを逃した場合は返済期限を延ばしたときや返済条件を変更したときに、その条件変更を認める代わりに契約書を作ることを承諾させるべきでしょう。
金銭貸借の契約の種類
・金銭消費貸借契約
借主が返還を約束して金銭の借入をする契約。
・金銭準消費貸借契約
売掛金を借主個人の金銭貸借に置き換える契約。
・債務承認弁済契約
借主が契約日時点での債務の存在を認める契約。主に過去の金銭貸借の返済条件を変更して契約しなおすときに利用。
(2007/12/01 速習)