中小企業が銀行から融資を受けられない理由として「赤字決算が続いている」「会社の規模と比較して借入れが多い」「保全不足で新たな担保が必要」など、さまざまな理由が上げられます。
しかし、そもそも会社としてやるべきことをやっていないということもあるのです。例えば、「融資取引をしている銀行に事業の見通しを報告する」「法人の税金を滞納しない」などは、企業活動の基本です。では、私が銀行融資のコンサルタントとして、実際に経験した事例をご紹介していきたいと思います。
《事例1 実現不可能な経営計画書を作る経営者》
○○ソフト開発株式会社は、北関東に本社を置き設立7年を経過した企業です。ホームページ制作やシステム開発が主な業務内容です。売上は2千万円台、利益は数十万円程度。信用保証協会の保証は自社の借入限度額まで利用しており、メインバンクからは資金繰りに応じて無担保のプロパー融資も短期で利用していました。ちなみに、過去に返済が遅れたことは一度もありません。
実績の伴わない資料
○○ソフト開発の社長は、当然パソコン操作に詳しく、表計算ソフトで期首には経営計画書を作成し、3カ月に1回は資金繰り表を作成して、銀行の担当者と会うたびに手渡していました。資金繰り表や経営計画書を作成して銀行に提出するだけでも、経営者としてたいへん立派なことです。
しかし問題は、その数字が実際の数字とかけ離れていることです。それも、ここ最近3期間に作成した経営計画書は実際の結果とは大きくかけ離れていました。
社長は、「今期は売上が7千万円近くまで行って、翌期1億円は超えます。というのもあの有名な株式会社○○とか××株式会社などから、自社開発ソフトを利用したいと言われていて、毎月△△万円以上の売上が入ってきますから」と報告していました。しかし、結果はいつもと同じ2千万円台の売上で留まっていました。資金繰り表も似たような感じでした(下表参照)。

チャンス到来、しかし…
ある時、○○ソフト開発に大手企業から取引をしたいとの連絡が入りました。しかし1千万円近い運転資金が必要でしたので、すぐにメインバンクに相談しました。
これまでも、500万円程度はプロパー融資を利用できていたので、今回もとりあえずその金額程度は融資が見込めるだろうと予想していました。
ところが銀行からは、「今期は、経営計画書の今期分の数字がある程度達成できるかどうか様子を見たい」との返答となりました。困った社長は、「代理として再度銀行との話し合いをしてくれないか」と、私に相談を持ちかけました。幸い、銀行の担当者と面識があったので会って話しをしました。
そこで、過去に社長から渡されたという経営計画書を見せてもらうと、前記の通り、毎年売上が1億円を超えると報告をしておいて、結局は現状維持がやっとの状態でした。私でも「こんな計画書では信用されないな…」といった感想を持ってしまいました。
確かに経営計画書を作ってもその通りに行くことは少ないと思います。60?70%でも達成できれば良いと言えます。しかし、これでは対外的に信頼をなくすだけでなく経営者の能力をも問われてしまいます。
【Before - After 】
銀行との話し合いを踏まえ、私から「○○ソフト開発株式会社」の社長に、以下の2つのアドバイスをしました。
その1 社長は技術者経験が長く、自社開発ソフトは大変画期的なものであり絶対売れるという強い思い入れがあり、株式公開を5年後には目指すという考えの人でした。よって、株式公開を意識しすぎた強気の(実現可能性の低い)経営計画書や資金繰り表を作成していたのですが、それを改めさせ、現実に近い数字で再度作成する支援を行い、資金繰り表は毎月銀行担当者に持っていき説明をするようにしました。
その2 ホームページ作成などの単発で終わってしまうような仕事や、自社ソフトの開発は規模を縮小して、システム開発技術者を大手企業に長期間派遣する派遣事業に人材を集中させ、毎月の安定した収入が見込めるように改善しました。
結果的には、この時の融資は失敗してしまいましたが、約1年後に、また大きなチャンスが来たときには、銀行は積極的に支援してくれるようになりました。
★あまり背伸びしないでアピールを!
経営計画書や資金繰り表を自社で作成し、銀行に渡している会社はまだまだ少ないと思います。「どうせ作ったって予想通りになんて行かないのだから無駄」という経営者も多いでしょう。しかし、銀行員だって計画通りに行かないのは分かっていますから、少しくらい数字に差があっても大丈夫です。ただし、○○ソフト開発株式会社のように大きく乖離かいりした数字では、逆に信頼を失いかねませんから、そこだけは注意してください。
もしどうしても面倒でしたら、顧問税理士から定期的に受け取る試算表を銀行に持っていくことから実践してはいかがでしょうか。
《事例2 税理士の言いなりになって融資が難しくなったケース》
○○製造所株式会社は、横浜市で設立して30年、窓や玄関などの住宅部品の製造を行ってきました。先代社長の努力で大手企業との取引もあり、これまで安定経営を保っていましたが、ここ5期間は大赤字と若干の黒字を交互に繰り返すような状態になってしまいました。去年、息子さんが後を継ぎ二代目の社長になった頃には、会社の現預金はほとんどなく、おまけに社長一族にも財産がほとんどない最悪の状態でした。私の所へは、「資金繰りから少しは開放されたい」ということで相談に来られました。
融資は出るのになぜか消費税が滞納
決算書を何期分か見ると確かにあまりいい状態ではありませんが、債務超過にまではなっていませんし、金融機関からの借入が全くありませんでした。これならば保証協会付きであれば融資は可能だろうと考えましたが、結果は申し込む前に無理だと分かりました。理由は、前期に消費税150万円を滞納していたのです。
どうして銀行から納税資金を借り入れて消費税を納付しなかったのかと尋ねると、「税理士さんから銀行借入をしてまで経営なんてするものじゃない」と叱られ、結果、消費税が未納になってしまっていると言うのです。
税理士を替え、長年の取引先に助けてもらう
<顧問税理士の変更>
最近は税金以外の相談にも対応する頼もしい税理士が増えてきましたが、まだまだ税金を計算するだけのような方も多いようです。この顧問税理士もそのような方で、顧客の立場に立ったアドバイスができない方でした。それに、常に運転資金が必要になってくる業種でしたので、今後のことも考えると税務だけにとどまらず、銀行融資のことも考えることができる税理士が良いだろうと、新たな方を紹介しました。
<消費税の滞納を解消>
当然これが一番やらなければならないことですが、消費税納付については左記の3つを考えました。
@社長や親族、知人からの借入
Aノンバンクからの借入
B取引先に、買掛金の支払いを待ってもらう
@はもう限界でしたし、Aは短期とはいえ高金利ですし、借りられなかったときのリスクがありました。結局、Bの買掛金の支払いを1カ月待ってもらう方向で進めていくことになりました。
買掛金残高は、毎月700万円近くありましたが、その中で長年の取引で信頼できる1社がおよそ200万円分ありました。その会社に事情を説明し、翌々月の末日に2カ月分をまとめて支払うこと、その後は今までどおり月末締の翌月末支払いに戻すと言う約束で、支払いを待ってもらう了解を頂きました。ただ、さすがに消費税を納付するためとは言いにくく、「金額の大きい仕事が来て支払いが先行するので」と説明しました。
【Before - After 】
その後、支払いを遅らせてもらった資金で納税を済ませ、長年預金取引のある信用金庫から無事に1,500万円を借り入れることが出来ました。資金繰りに時間を使わなくなった分、営業時間が増えたからでしょうか、二代目社長も入金条件と利幅のいい仕事を取ってくるようになり、現在は経営も安定の方向へ向かっています。
ご注意願いたいのですが、この事例のように信頼できる取引会社があればいいのですが、場合によっては取引先からの信用を落とす可能性がありますので、慎重に行う必要があります。
★税金の滞納は致命的
消費税の支払いで困っている会社は多いと思いますが、税金の滞納があると銀行から融資を受けることは非常に難しくなります。少しでも納税資金で融資を受ける可能性があるのならば、早めに銀行に相談することが大切です。
そのためにも日々の経理業務を疎かにしないことです。そうすれば、納税額の予想も早めに把握できます。また、銀行に相談に行く時の説明資料もすぐに作成できますから、余裕を持って銀行と交渉できるでしょう。
(2007/08/01 近代中小企業)