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カウンセラー名: 川越雄一
 
 
 
 

小さな会社の賃金はこう決めて・こう払う
川越社会保険労務士事務所 代表取締役  川越雄一


 
雇用関係において、賃金が大きなポイントになることは言わずとも知れたこと。特に中小企業は、賃金額等において大企業には太刀打ちできない。それなのに、大企業の縮小コピーもどきの賃金制度を作り、テクニックありきでやっている中小企業が意外と多い。
こんなことでは、“人財”となるべき従業員から見切られる。そうであれば、やり方は少々泥臭くとも、従業員から経営者の顔が見える、地に足のついた賃金の決め方・払い方をしたいものである。

本稿のポイント
1.大企業との違いを認識する
2.こんな払い方では“人財”から見切られる
3.賃金は経営者が納得できるように決めればいい
4.最低限外せない、賃金支払い3つの視点5.給料日を感動日にする

1.大企業との違いを認識する
大企業の制度を縮小コピーしたような、いわゆる“大企業風”賃金制度は、中小企業には手に余る。
そもそも、同じ株式会社とは言え、働く従業員像・働き方、経営者意識、そして、待遇は180度違うと言っても過言ではない。この辺りの違いを認識していないと、ふわふわとした絵に描いた餅のような議論になってしまう。

(1)従業員像・働き方の違い
@ほとんど中途採用・中途退職・・・中小企業の大半は必要に応じて増員、又は退職者の補充で人を採用する。最近は多少変わってきているが、新卒定期採用・終身雇用を基本とする大企業とは根本的に違う。

A学歴・経験・能力がバラバラ・・・中小企業の人材活用は何をさせるか、というよりも何ができるかが基本となる。丁度、冷蔵庫をのぞき、今ある食材で作らざるを得ない、家庭料理のようなものだ。

B職種・勤務場所が限定的・・・中小企業はそう多くの職種もないし、転勤だって基本的にはない。大企業がいろいろな職種を経験して、キャリアアップするのに対して、中小企業の従業員は、同じ仕事を同じ場所でコツコツやることで会社に貢献する。

(2)経営者の立場の違い
@中小企業は株主である資本と経営が未分離・・・会社の借り入れには経営者の個人保証が付き、全責任は経営者自身が持つ。会社は経営者であり、経営者は会社そのものだ。 そもそも、株主から資本を集めて経営を行う大企業とは根本的に違う。

A従業員と一緒に仕事をする・・・中小企業経営者はプレイングマネージャーだ。同じ職場で従業員と一緒に汗をかく。だから、従業員一人ひとりの働きぶりを、常に目の当たりにしており、大体、従業員の仕事振りに見合う賃金額は経営者の頭の中にあるはずだ。

(3)賃金額等の違い
新聞などで賃金制度云々ということで取り上げられたり、賃金制度を論じた本は、一般的に大企業向け、もしくは大企業の縮小コピーのようなものだ。
毎年、厚生労働省から発表される「賃金構造基本統計調査」(平成16 年6 月分データ)をもとに作成したのが、図表1 である。確かに、調査自体に誤差はあるが、大方の傾向はつかめる。これによると、従業員規模100 人未満の会社の年収は、1000 人以上の会社の約6 割と言うことになる。また、10 人未満の小規模な企業や地方だと格差はさらに大きくなる。

(図表1) 規模別 年収・平均年齢・平均勤続年数

※産業計、男女計をもとにした。
※年収は、きまって支給する現金給与額(残業代を含んだ月例賃金額)を12 倍したものに、年間賞与等を加えて算出した。

2.こんな払い方では“ 人財” から見切られる
(1)【失敗事例】〜従業員はジェットコースーター型賃金を望んでいない
A 社は従業員30 人の建設資材卸売業である。公共工事の大幅減少にともない、売上は年々減少し、ここ数年ほど赤字決算が続いていた。そんな折、同業者の社長から「成果主義賃金にしないとダメだよ」とアドバイスを受け、歩合制を導入した。それも極端な制度で、2 カ月の粗利実績により、3 カ月目から基本給も変動するものだった。だから毎月賃金が乱高下する。従業員同士の間では、導入に対して疑問視する向きも多かったが、社長の前では誰も反対できなかった。そして、導入後異変が起きた。
目先の業績を狙うため、役所・設計事務所への中長期的な営業活動が手薄になった。また、部長とか課長が部下の面倒を見なくなったり、社内の連携が悪くなり、なんとなく暗い雰囲気になっていった。さらに日を追うごとに、30 代の優秀な営業マンが徐々に辞めていき、同業他社に移っていった。そうなると業績はますます悪くなり、賃金遅配もたびたび起こるようになり、あとはお決まりのコースとなった。

(2)失敗事例から学ぶ、3つの教訓
■教訓1 行き過ぎた成果主義賃金制度は、従業員から見切られる
「仕事は労働時間じゃなく、成果だ!」と叫べは業績が伸びるのか?
大企業では、周到に準備され導入された、「成果主義賃金制度」が相次ぎ見直しされている。もちろん成果主義自体が悪いわけではないが、目先の業績のみを狙うことになり、本質的な業績向上にならない。また、部下の育成を軽視するなど問題も多い。そして、極端な歩合制度など行き過ぎた成果主義賃金制度では、優秀な従業員から辞めていく。

■教訓2 従業員の望みなど知れている
中小企業に入社してくる従業員の大半は、そう突拍子もないことは考えていない。
賃金においても、その地域の相場というのがあり、そこそこあればそう不満は持たない。
また、家庭持ちは、少々安くても毎月安定した収入を期待する。経営者からみれば、ささやかな望みだが、それが従業員というものだ。だから、やればやっただけの事はあるといっても、極端に今月は100 万円あったが、来月は15 万円、そして再来月は・・・、と言うようなジェットコースター型賃金を望む従業員は少ない。

■教訓3 社会に通用しない払い方では
成果主義と言えば、その影にサービス残業問題が見え隠れする。確かに、働いた時間が、成果に比例するわけではない。しかし、少なくとも一般従業員においては、法律的に時間を軸とした規制が今後ますます強化されるはずだ。そうであれば、先ずは合法的に、労働時間に見合う賃金を払っておかないと社会に通用しない。社会に通用しないことは、いずれ崩壊するのが世の常だ。 

3.賃金は経営者が納得できるように決めればいい
確かに、賃金にはある程度公平性が必要だ。しかし、所詮は人の判断で行うわけで、主観は入るし、それはそれで中小企業らしくて結構なことだ。
そもそも、賃金を払うのは法律でも従業員でもなく、経営者なのであるから、その経営者が納得できる賃金であることは絶対条件である。

(1)先ず経営者が理解できる制度を作る
経営者が理解できないのは致命傷だ。特に立派な制度であればあるほど、中小企業の現場から離れていき、雲の上の話になっていく。経営者が理解できていないものを従業員に説明・納得させられるはずがない。

@分かりやすく・・・人は分かりにくいから、モヤモヤ・イライラする。特に賃金と言うのは従業員と会社を結ぶ非常に大きな絆である。だから、だれが見ても分かりやすい制度がいい。

A現実的に・・・従業員にとって賃金は生活の糧である。いくら奇麗事を並べたところで、現実的に継続的・安定的に支払える制度でなくては意味がない。

B血の通った・・・中小企業の売りは、“暖かな、厳しさ”だ。従業員は法律や規程で動くわけではない。会社の一寸した配慮を“意気”に感じて働くものだ。だから、多少は従業員に逃げ場のある制度がいいのではないか。

(2)絶対評価ありきの呪縛にはまらない
今は個性尊重とかで、順位をつけたがらない。だから、経営者も順位をつけるのに原資には限りがある。例えば、最近は運動会で、学年リレーがない学校も多い。
選抜されなかった生徒への配慮らしい。リレーに縁のなかった筆者が言うのも変だが、何ともおかしな話である。賃金として分配する原資には限りがあるのだから。
そうであれば、優秀な「人財」から、できればお辞め頂きたい「人罪」までの序列をつけ、それに応じた賃金の分配を行う、いわゆる相対評価で考えるべきだ。

(3)期待外れ対策は前もって打つ“
期待して採った奴ほど早く辞め”とは裏腹に、見込み違いにより、会社の期待には全く到達していない従業員に限って居座りやすい。初任給は期待料込みで決めていることが多いので、仕事と賃金のバランスが大きく崩れ、経営者の悩みの種となる。だから、期待外れもいることを前提に、採用時点である程度の対策は打っておく。

@期待の程度を明示する・・・従業員の肩を持つわけではないが、例えば、1年後にはこの程度のことはしてくれよ、と具体的に示しておかないと、従業員もどこまでやれば、及第点なのかが分からない。丁度、バーのない走り高跳びをさせるようなものだ。

A下駄は原則1年限り・・・スカウトしても採りたい人はいる。そのような場合、現在在籍の従業員賃金とのバランスから、下駄をはかせることがある。しかし、この下駄は原則1年間支給とし、仮に1年後に会社の期待通りであれば、正式なそれなりの手当として新ためて支給する。

B決めたことは契約書に・・・“口約束は災いの基”だ。いくらきっちりとした取り決めをしていても、口約束では、お互いに都合の悪いことは忘れやすいわけで、結局、言った言わなかったの水掛け論となる。会社の立場を守るためにも、必ず文書化しておく。

4.最低限外せない、賃金支払い3つの視点
信用を築くのは難しい。大企業では発想すらない次のような視点が、中小企業では重要となる。配慮不足から一つ不信感を持たれると、あれもこれも疑って見られかねない。
そうであれば、賃金は誤解の無いよう、きれいに、そして現実的に払える範囲で払うことにより労使の信頼関係を築きたい。

(1)従業員に誤解されないこと

@入社・退職日にこだわる・・・多くの企業では、賃金締切日に関係なく、暦を基準に入社・退職がなされる。大企業や官公庁など、1日でも出勤すれば月給を全額払う完全月給制なら良いのだろうが、そうでない中小企業では、最初の給料日に誤解を招く。
会社は当然日割りで考えているのに対して、従業員は月給制なら満額出るものと思い込んでいるからだ。 
例えば、20 日締切であれば、入社は21 日、退職は20 日に統一する。

Aやむを得ない場合は…どうしても、賃金締切日に合わせられない場合は、採用時の雇用契約書に、最初の賃金は日割りにして支払う旨を明記しておく。
また、採用後1 カ月未満で退職する場合に、減額して支払うのであれば、計算方法も明記しておく。

(2)きれいに払うこと

@取り決めまでは言いたい放題で・・・雇用契約も商取引と考えるとわかりやすい。
例えば、見積もりを提出し契約までは、お互いに攻防がある。しかし、一度契約したら、そのとおりに履行するのがルールである。賃金についても、決めた以上は取りあえずそのとおり支払う。また、不必要な残業をして欲しくない場合は、黙認しておいて払わないのではなく、残業をする前にハッキリ残業を断る。

A明朗であること・・・賃金は合法的である限り、会社が自由に決めれば良い。どんな手当をつけようが、何ら問題ない。
しかし、経営者・従業員とも理解できない制度では一寸都合が悪い。例えば、意味不明の特別手当・職務手当・職能給、一律支給の通勤手当、など取って付けたような手当は不明朗であり、信頼関係を損なう。
だから、支給する手当にハッキリと意味を持たせる。また、必要以上に手当の数を増やすのも考えものだ。シンプルイズベスト!

B合法的に・・・サービス残業は好ましくないが、勤怠が曖昧なのは、もっと良くない。遅刻、早退、欠勤、年休等の勤怠区分を明確にし記録しておく。そして、出すべきものは出し、差し引くべきものは差し引くようにする。
サービス残業問題は、これからますます規制が強化されるはずだ。ちなみに賃金の時効は2年間あるわけで、退職後2年間もビクビクしておくのは割りに合わない。

(3)無い袖は振らないこと

@欠勤控除は堂々と・・・特に、入社半年間は有給休暇がないので、理由の如何を問わず休むと欠勤になる。そして、欠勤時は欠勤控除する旨を、あらかじめ伝えておく。
さらに、無断欠勤などについては、始末書を取った上で、それなりの処分を行う。 

A保険に頼るべきは頼る・・・業務上・業務外に関らず、従業員が傷病により休業する場合は、労災保険もしくは健康保険を利用して休業給付を受けさせる。当然、会社はその間の賃金は支払わなくて済む。(労災の場合は最初の3日間は支払い必要)そのために、会社は労災保険料の全額、健康保険料の半額を負担しているのである。

B賃下げは同意を得ること・・・どんなに、採用段階で慎重に選考したとしても、“期待外れ”はいる。その場合、賃金をそれなりに下げましょう、ということになるが、事はそう簡単にはいかない。会社が思っているほど、当の本人は“期待外れ”とは思っていないのが普通である。
だから、本人に、会社の求める基準に達していない旨を説明し理解させる。そしてチャンスを与え、それでもダメなときに賃下げ同意書に署名をもらい、賃下げを行う。

5.給料日を感動日にする

従業員にとって給料日は特別な日だ。もちろん、支払う側の経営者にとっても同じこと。いくら時代が変わろうとも、雇用関係においてこれ以上、お互いの関係・立場を意識する日はない。そして、この給料日、会社の対応如何により“感動日”にもなるし、“不信日” にもなる。そう高額な賃金が払えない中小企業において、せめて給料袋を開けた瞬間(とき)ぐらいは感動のあるような、賃金の払い方をしたいものだ。

(1)たかが賃金計算、されど・・・

@正確であること・・・賃金計算が正確であることは、言うまでもない。しかし、社会保険料・雇用保険料、残業手当の計算など、結構複雑だ。特に、最近は制度や保険料率の変更が頻繁に行われ、賃金計算事務担当者を悩ませている。

A間違いへの対処・・・賃金計算間違いはあってはならないが、所詮は人がすることで、ミスはある。大事なのは、そのミスへの対処の仕方だ。「先日の賃金計算、ここ違うんじゃないですか?」と、言ってくれればいいのだが、社内の偉い人が賃金計算担当だったりすると、言うに言えず「まぁ、いいか」なんてことになる。そして、徐々に不信感が増殖していく。だから、間違いは間違いとして、従業員の声が会社に伝わりやすくしておく。

Bキッチリとした賃金明細がモノを言う・・・賃金明細には出勤日数、残業時間、各種手当、差し引き明細などをキッチリと記入する。確かに渡す方からすれば、何十枚、何百枚のうちの一枚だが、受ける側は世界でたった一枚、自分の1カ月の成績表みたいなものだ。だから、給料袋を開けた瞬間がポイントで、従業員本人はともかく、家に帰れば奥さんのチェックが入ることも心得る。 

(2)その瞬間に信頼が高まる

@給料日の午前10時に集中する・・・従業員は給料日を指折り数えて待っている。銀行振り込みが大勢を占める昨今、従業員(奥さん)はカードを持って銀行に走る。通帳記入をし、「ギーギー」と印字の音を聞いた瞬間が、会社とのつながりを意識する一瞬だ。逆に「未記入はございません」などと出てくると、一瞬で信頼を無くす。もちろん、事情もあるだろうが、午前10 時には引き出し可能にしておきたい。

A給料袋は手渡す・・・確かに中身は銀行経由で支払うところが多いが、給料袋は手渡ししたい。「1 カ月、ご苦労様」と一人一人、呼んで両手で渡す。従業員は、「ありがとうございます」と両手で受け取る。
この受け取り方もできない人は、できるまでやり直しをさせる。こんなこともできないようでは、仕事もまともにできるはずがないから、しっかりと躾ける。

B賃金に真心を込める…今どきの給料袋は、機械印字が多く、それはそれで綺麗で良いのだが味気ない。1 カ月ご苦労様との印刷文字も、どことなく空々しい。そこで、社長の手書きの一筆を給料袋の中に入れて渡す。何を書くか悩むところではあるが、難しいことは必要なく、真心を込めればいい。
また、ワープロ打ちでも構わないが、ここは出来れば手書きにこだわりたい。字がうまい下手は関係なく、丁寧に書けば相手の心に響く。さらには、従業員家族への感謝の気持ちも、チラリと盛り込めれば言うことなし。 
例えばこんな風に・・・。 
賃金の決め方・払い方に100%のものはない。しかし、中小企業においてやってはいけない事は、大企業の制度を中途半端にマネすることだ。
そもそも、大企業は新卒定期採用・出世競争そして終身雇用を前提としている。それに対して中小企業は、中途採用・中途退職、定着率の低さなど、大企業とは似ても似つかない。
また中小企業の従業員だって、そう途方も無い望みは持っていない。そうであれば、従業員の気持に配慮した賃金の決め方・払い方をすることが、現実的であり中小企業らしいのである。

(2007/02/01 速習)
 
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