1.解雇
日本では長い間、大企業から中小、零細企業まで、「終身雇用制」が浸透し、余程のミスを犯さない限り、労働者はその職業生活をまっとうすることができました。
労働者にとっては、有利な制度だったように思えますが、この「終身雇用制」も経済のグローバル化、能力主義等の影響を受け、大きく揺らぎ、解雇をめぐる争いが頻発する中、解雇ルールの明確化を求める声が労働者側、使用者側を問わず大きくなってきました。
平成15 年の労働基準法改正時には「解雇は客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」(第18 条の2)という条文が盛り込まれました。もちろんこれは判例の積み重ねにより確立された従来の「解雇権濫用の法理」を変更するものではなく、むしろ、それを法文上明確にしたものであり、実務上は就業規則中で「合理的理由」「正当な理由のある解雇」とは何なのか、どのようなケースがあてはまるのかなど、具体的に記述することが求められます。
そうすることが「不当な解雇」を避けることにつながると考えられているからです。
就業規則の絶対的記載事項には従来「退職に関する事項」が挙げられていましたが、わざわざ平成15 年の法改正時に「退職に関する事項(解雇の事由を含む)」と明記されたことからもわかるように、解雇事由も明確に定めておくべきことは、必須条件なのです。
また、記載された解雇事由は例示列挙であると考えるのが、通説です。「その他前2号に掲げる事由に準じる重大な事由」がある場合は解雇できる,と規定しておけば良いという考え方もあり得ますが、より具体的に解雇事由を列記しておくことが解雇をめぐるトラブル防止につながるといえます。
このように就業規則に曖昧さを残さないことが、争いを減らし結果的に従業員に安心感を与えることにもなるのです。
2.セクハラ
セクシャルハラスメントは、個人の尊厳を侵害するだけにとどまらず、会社業務の円滑な遂行を阻害、従業員のモラールダウンを引き起こすとも言われています。また、こじれると訴訟などにより会社のイメージを低下させることにもなります。
では、セクハラ防止のために会社はどのような対策をとったら良いのでしょうか。
取るべき対策は大きく分けて、3つあります。
1.会社の方針を明らかにして、社内報、就業規則の改定などを通じ全従業員の注意を喚起すること。そして悪質なケースでは、会社は断固とした措置をとることを示すこと。
2.相談、苦情の窓口を設置して、セクハラの事実を早期に会社がキャッチする体制を整えること。
3.そして相談があった時は、迅速に事実関係を確認し、正しく対応すること。
以上の3つです。
会社や周囲が他人事のような態度をとったり、デリケートな問題だからと及び腰でいたのでは、けっしてセクハラ対策は前に進みません。会社は自社の従業員が職場内でセクハラを受けないように配慮する義務を負っています。つまり会社は、従業員が安心して、いきいきと働ける労働環境を作出しなければならないのです。
具体的なセクハラ対策として最初に頭に浮かぶのは、就業規則の整備でしょうが、単なる「べからず集」にならぬよう、厚生労働省の指針等を参考に、従業員の「安心、満足」を得られる規程を作り上げたいものです。
平成19 年4月1日から均等法が
@性差別禁止の範囲の拡大、A婚姻等を理由とする不利益取扱いの禁止、Bセクシャルハラスメント対策、Cポジティブ・アクションの効果的推進方策、D男女雇用機会均等の実効性の確保
などの事項について改正されますので、その意味でも就業規則の改定・充実作業は重要です。
3.労働災害と安全配慮義務
従業員が業務上、ケガ等を負った場合には労災保険から各種の給付があります。
しかし、それで会社の責任が免除されるわけではありません。
会社に何らかの、手落ちがあれば従業員から損害賠償を請求されることもあります。つまり、「使用者が労働者の安全を守るため配慮を尽くすべき義務を負うべきことは、当然のこととして契約内容に含まれるのではないか」というものです。
根拠は債務不履行(民法第415 条)という条文なのですが、この他にも不法行為(同709 条)、使用者責任(同715 条)、工作物瑕疵(同717 条)などが根拠条文として挙げられます。
いずれにしても会社は規模の大小等にかかわらず、等しく安全配慮義務を負います。業務上の災害が発生した場合には、労災からの給付の上乗せとして会社独自に一時金を支給する等の考慮をする必要があるでしょう。
これは、当然、就業規則にも定めておくべきです。
この様な上積み、上乗せ的な企業内労災補償とも言うべき金銭はその価額の限度で追加の損害賠償責任を免れますので、福利厚生的意味合いからだけでなく訴訟回避の手段としても非常に有効です。
最近では過重労働、過労死の問題が大きくとり上げられていますが、これも長時間労働などで過重な負荷がかかり、疲労が蓄積した結果、脳,心臓疾患等の疾病を引き起こすという考え方ですので、業務上の災害として労災保険の補償対象になるものです。
その場合、過重労働であるか否かを判断する重要な要素として「労働時間の長さ」が考慮されます。会社としては時間外労働を削減させる努力をしなければなりません。
そのための労働時間管理の理念が、労働実態に応じて導入された種々の方策の中から、そしてそれを具現化した就業規則の条文の中から読み取ることができるよう工夫したいものです。
なお、業務を行う上での負担は身体的、肉体的な疲労によるものばかりではありません。仕事上のプレッシャーやストレス等、精神面において支障を来すケースも考えられます。
そうした従業員のメンタルヘルスケアを行うことも、健康管理の一環として重要なことです。セルフケア、ラインによるケア、社内の産業医、衛生管理者等、産業保健スタッフによるケア、社外の専門機関によるケア等、会社として具体的にどのような配慮、環境整備を図るかが問われることになりそうです。
(2007/04/01 速習)